腰を抑える中年男性

【吉祥寺・久我山】アサーティブフィットネス、パーソナルトレーナーの小森祐史です。

世界中で約6億人、日本では約3000万人が悩まされている『腰痛』。
椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・急性腰痛(ぎっくり腰)・圧迫骨折などその種類は様々ですが、共通しているのは生活や仕事に大きな影響があることです。

今までは痛みが出てきたら「安静にする」ことが常識でしたが、実はその対応が痛みを悪化させていることが最近の研究でわかってきました。

なぜ「安静にする」ことが痛みを悪化させてしまうのでしょうか?
痛みを改善すために必要な方法とは?

私自身の経験も踏まえ、腰痛の本当の原因・対処法をメンタル編・フィジカル編の2回に分けてお届けします。

 

腰痛とは何か?腰痛の種類を解説

背骨が透けて見える男性のイラスト

腰痛に関する全国調査 報告書 – 2023年版 –によると、治療(針やマッサージなどを含む)を必要とするほどの腰痛を男性の43.9%、女性の43.6%が経験していて、年代別にみると男性の50~69歳、女性の50~59歳に多いことがわかっています、

しかし一言に腰痛といってもその原因も種類も様々です。
腰(脊柱)自体に原因がある場合、血管・泌尿器・消化器など腰以外の病気が原因である場合もあります。

そして『痛み』には,侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛の3種類があります.

『侵害受容性疼痛』とは一般的に想像される痛みで、骨折などの怪我や包丁で指を切ってしまったりした時に感じる痛みがそれに当たります。

腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症など神経自体に損傷や圧迫があるときに起こるのが『神経障害性疼痛』。

『痛覚変調性疼痛』とは2021年にできた新しい概念です。
『侵害受容性疼痛』のような「現場」に異常がなく、『神経障害性疼痛』のように神経や脳の損傷が無いにも関わらず常に痛みを感じる状態のことを指します。

しかし実際にはそれぞれの痛みが混在して『腰痛』となっている場合がほとんどで、それが症状の改善を難しくしています。

 

腰痛の85%は原因がわからない

腰の炎症を表したイラスト 

しかし、このように分類ができているにもかかわらず腰痛の多くは“原因不明”です。

画像診断や血液検査などで痛みの原因が特定できるものを『特異性腰痛』、原因がはっきりしないものを『非特異性腰痛』といいます。

そして腰痛の約85%は非特異性腰痛です。
原因を特定できるのはわずか15%程度しかありません。

腰痛の原因は様々であり、それぞれが混在して痛みが発生していることは先ほどお伝えした通りです。

欧米での大規模調査によると、腰椎椎間板ヘルニアは1年で約6割、5年で約9割以上が完全治癒することがわかっています。
これは体内のマクロファージ(白血球の一種)がヘルニアという異物を除去するためといわれています。

また国際腰痛学会の報告によると、腰痛経験のない健康な人の8割に椎間板の変形やヘルニアが見つかっています。
つまり腰の組織に異常があったとしても、ほとんどの人は問題なく日常生活を過ごせているのです。

実は20代の頃に酷い腰痛を発症したことがあるのですが、それがこの非特異性腰痛でした。

 

原因不明の腰痛に悩んだ日々

うつむいて歩く男性と残量が切れそうなバッテリーのイラスト

私が腰痛を発症したのは大学卒業してすぐのことでした。

仕事から帰ってトレーニング前の準備運動をしていた時、背中に電流のような激しい痛みが走りました。
いわゆるギックリ腰です。

今までトレーニング中に腰を痛めたことはなかったのでとてもショックな出来事でした。

その日は安静にしてすぐに寝ましたが、回復する兆しはありません。
翌日以降も仕事に向かいましたが、とにかく痛みが気になります。

お昼休憩中は近くのベンチで寝っ転がり、酷い時は仕事を休むこともありました。
お休みの日はできるだけ安静にしましたが、まったく回復する兆しはありません。

痛みが発症してから1ヶ月程度までの腰痛を『急性腰痛』、3ヶ月以上続くものを『慢性腰痛』といいます。
半年を経過しても回復する見込みはなかったため、明らかに私の場合は後者でした。

整骨院で週に2回施術を受け、「腰痛に効く」という触れ込みの健康グッズがあればネットで検索。
しかしそれでも回復する兆しが見えてこない。

結局、常に痛みを感じる日々を一年近く送ることになります。

しかし、この時どんなに良い治療・施術を受けても腰痛が改善することはなかったでしょう。
というのは、痛みの原因は”腰”ではなかったからです。

 

腰痛の本当の原因とは

ライフイベントのイラスト

現在では完治しておりますが、もうあのような思いをしたくはないなというのが正直なところです。
24時間腰に痛みを感じ続けるのはかなり酷な日々でした。

先ほど取り上げた「腰痛に関する全国調査 報告書 – 2023年版 -」によると、腰痛患者には平均年齢59.0歳・併存疾患が多い・離婚/死別経験者がやや多い』という特徴がみられたことが分かっています。

原因が骨折や神経の障害であれば、腰痛患者は高齢者の方が多いはずです。
しかし、この報告書によると年代が少し下の50代に腰痛を抱えている人が多いことがわかります。

なぜ中高年に有病者が多いのでしょうか?

その疑問を解くヒントはその年代の生活スタイルにあります。

中高年になると生活スタイルが多様化し、さまざまなライフイベントに直面します。
結婚や出産、昇進など喜ばしいことがある一方

●失業
●所得の減少
●体力の低下
●家族との同別居
●介護
●友人・家族との別離

など、心身共にダメージの大きい出来事も起こります。

これらは大きなストレッサー(ストレスの要因)であり、複数が組み合わさることで過剰なストレス(反応)となります。

大きなストレッサーは血圧・血糖値を上昇させ、下痢・便秘・肩こりなどの不快な症状を引き起こします。
そしてその中には腰痛も含まれます。

つまり筋肉や骨、神経に問題があると思っていた腰痛の本当の原因はストレスである可能性が高いのです。

 

腰痛治療の第一選択肢は“抗うつ薬”

カプセルと錠剤と薬のボトル

腰に痛みが出るきっかけは心理的な負担であることが多く、日本整形外科学会では「仕事や職場における心理社会的因子は腰痛の発症、治療成績と遷延化に強く関連する」と述べています。

大きなストレッサーが腰痛を引き起こすメカニズムについて考えていきましょう。

先ほど腰にヘルニアがあっても痛みを感じない人のお話をしました。
ヘルニアで痛みが出る人と出ない人の違いは“オピオイドの量”です。

身体に炎症(腰痛の場合は腰)が起きて痛みを感じると、その情報が脳の腹側被蓋野に伝わり、神経伝達物質のドーパミンを放出します。
そしてドーパミンは脳の側坐核に働きかけて『オピオイド』という脳内物質を作り、下降性疼痛抑制系という痛みを抑えるシステムを活性化します。

このように「炎症が発生する(痛みを感じる)」→「脳でドーパミンが放出され、オピオイドがつくられる」というシステム(ドーパミンシステム)が正常に働くことで、ヘルニアがあっても痛みは抑えられています。

しかし仕事や人間関係などの大きなストレッサーはオピオイドの分泌を減らしてしまいます。
結果痛みを強く感じるようになり、それが“腰痛”という形で表れます。

その証拠に腰痛診療ガイドライン2019では、慢性腰痛に対する治療方法として『抗うつ薬』や『弱オピオイド』を推奨しています。
とくに『抗うつ薬』は脳や脊髄に働きかけて痛みを和らげるため、欧米では治療の第一選択薬として扱われることもあります。

医学的にも腰痛と精神疾患に関係があることは証明されているのです。

では病院だけでしか腰痛の改善はできないのか?

というとそうではありません。
実は薬に頼らず腰痛を改善できる方法があります。

 

カウンセリングは腰痛の処方薬

男性と女性が向き合っている

薬に頼らず腰痛を改善する方法の一つに『カウンセリング』があります。
カウンセリングとは「心理的な問題や悩みについて専門的な援助をすること」で、単に「相談」という枠にとどまらない行為を指します。

カウンセリングは本人が抱える内面的な問題にアプローチすることが特徴です。
基本的には一対一で話し合いを行い、カウンセラーが様々な働きかけを行います。

腰痛はもちろん便秘や頭痛、不眠や高血圧など心身症に対する効果が実証されており、欧米でカウンセリングを受けることは一般的です。
海外生活が長かったあるクライアントは、何かあったらすぐにカウンセリングを受けていたことをお話されていました。

カウンセリングは専門的な技術ですが、私達にも真似できることはあります。
それは『聴く』という行為です。

『聴く』とは注意深く耳を傾けるきき方で、音や声を情報として受け取るだけの『聞く』とは異なります。

相談に対して“うなづく”“あいづちを打つ”ことは、話を深くきくための技術であり態度です。
その2つを意識するだけで、相談者本人は「私の悩みをきいてもらえている」ということを感じ取ります。

怒りやモヤモヤを言葉にして吐き出せるとストレスは小さくなるので、腰痛に苦しんでいる人が身近にいたら『聴く』ことを意識しましょう。

そしてあなた自身が腰痛に苦しんでいたら“話を聴いてくれる人”を探してみてください。
きっと今より不快な症状は楽になってくるはずです。

次回は「腰痛の本当の原因を考える(フィジカル編)」をお届けします。

 

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