リビングの床に座り、骨盤底筋トレーニングを行う女性

【吉祥寺・久我山】アサーティブフィットネス、パーソナルトレーナーの小森祐史です。

中高年女性に必要なトレーニング」を2回に分けて考えます。

男性と女性の体は大きく異なる点があります。
それは『月経』です。

月経は女性のライフスタイルに大きく関与していて、

いわゆる「女性らしい」身体つきになる10代。
妊娠・出産に最適な状態を迎える20代
妊娠がしづらくなり、基礎代謝が落ち始める30代~40代
閉経を迎え、更年期症状が重くなる50代
骨粗鬆症など生活習慣病のリスクが高くなる60代
転倒や骨折のリスクが増える70代。

など、年代によって身体に大きな変化を引き起こします。

骨折をすると移動が不便になるし、基礎代謝が低下すると体重が増加し、血圧や血糖値が上昇します。
加齢は避けることができないので、将来の生活に不安を感じている女性は多いかもしれません。

しかしご安心ください。
適切な対応をすれば、今より快適な状態で毎日を過ごすことができます。

その方法の一つがフィジカルトレーニングです。
専門的な方法で筋肉を鍛え、心肺持久力を上げていけば将来の生活は怖くありません。

生理学や解剖学、心理学の面から「今よりもっとイキイキと過ごす」ための方法を一緒に考えていきましょう。

 

なぜ女性の身体を考えたトレーニングが必要なのか?

ブロックに手をついて膝つき腕立て伏せをする中高年女性
女性にも専門的なトレーニングが必要、ということは何となくご存知かと思います。
とくに50代以降は骨折や生活習慣病のリスクが高くなるので、定期的な運動は必須です。

上記のリスクが高くなる理由は『エストロゲン』です。

エストロゲンは、血管の健康維持や内臓脂肪の抑制に関わる女性ホルモン。
閉経を迎えるとその分泌量が減るので、動脈硬化、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、さらには心筋梗塞や脳梗塞といった重大な病気のリスクを増加させることになります。

また、エストロゲンは骨の生成にも関わっているため、分泌量が減ると骨折のリスクも高くなります。

もちろん定期的なトレーニングで発症のリスクを減らせますが、注意したいのはその方法です。

例えば、女性の尿道は男性より短く、お腹に力が入ると尿が漏れやすい構造になっています。
また、骨盤は男性より広めにできているので、立ち姿勢の際に膝が内側に入りやすくなります。

身体的特徴が違うのに、男性と同じトレーニングをすると何かしら不都合が出てくるかもしれません。

 

男性と女性は○○が違う

男女の身体を思い浮かべた時にどんな体つきをイメージされるでしょうか?

子どもの頃は特に身体的特徴に違いはありませんが、思春期を迎えると、女性はエストロゲンの影響で胸が膨らみ、全体的に丸みを帯びた身体になります。
一方、男性はテストステロン(男性ホルモン)の影響で筋肉質な身体になります。

骨盤の各部名称が書かれたイラスト

ホルモンの影響は『骨盤』にも大きく現れます。

骨盤とは腹部臓器を含む空間のこと。
左右対称の2つの寛骨(腸骨・坐骨・恥骨が結合してできた骨)と仙骨からなり、仙骨と腸骨は『仙腸関節』、恥骨同士は『恥骨結合』で結合しています。

排泄と関わりがあり、女性にとっては胎児の発育がおこる場所でもあります。

骨盤上口と骨盤下口の位置・名称が書かれたイラスト

女性の骨盤は男性より幅広く、浅い形状をしています。
また、骨盤上口(上部)・下口(下部)がともに男性のそれより広いことも特徴です。

これは妊娠・出産というライフイベントが女性のみに存在しているからです。
出産の際、胎児は骨盤上口を通って骨盤内に入り、骨盤下口を通過する必要があります。

実はこのライフイベントが女性特有の症状と関係しているのですが・・・

 

骨盤は動く?動かない?

先述の通り、女性の骨盤の形状は妊娠・出産というライフイベントに適した形になっています。

仙腸関節は前仙腸靭帯、後仙腸靭帯、骨間仙腸靭帯、腸腰靭帯といった強力な靭帯によって安定性を保っています。
同じく恥骨結合も左右の恥骨が結合する部分が軟骨と靭帯で構成されていて、その安定性は強固です。

以上を踏まえると「骨盤は動かない」と言いたいところですが、妊娠した場合はこの限りではありません。

妊娠中はリラキシンというホルモンの影響で、骨盤周囲の靭帯が緩み、骨盤は動くようになります。
その影響を受けるのは『うなずき』『反うなずき』運動の2つです。

骨盤の「うなずき運動」を表したイラスト

うなずき運動とは仙骨が前方に倒れる動きです。

仙骨がうなずくように前に倒れると、左右の腸骨が仙骨に近づき、坐骨部が開きます。
この動きは骨盤下口(下部)を開き、出産後期(赤ちゃんが外に出てくるとき)に適した状態を作ります。

骨盤の「反うなずき運動」を表したイラスト

一方、反うなずき運動では仙骨が後ろに倒れます。

左右の腸骨が仙骨から離れ、坐骨結節は近づきます。
この動きは骨盤上口(上部)を開き、出産前期(赤ちゃんが骨盤に下りるとき)に適した状態を作ります。

仙腸関節や恥骨結合が動くことは、『出産』というライフイベントにおいて自然な現象ではありますが、過剰に動くとときに腰痛や股関節痛を引き起こすことがあります、

「骨盤が歪む」という表現を書籍のタイトルなどでよく見かけますが、これは妊娠・出産における骨盤周囲の可動性の増加を表しているのでしょう。

しかし、出産にまつわるトラブルは腰痛や股関節痛だけではありません。

 

日常生活で大切な役割をしている「骨盤底筋」とは?

骨盤底筋の各部名称が書かれたイラスト

骨盤の構造は非常に複雑ですが、その役割は主に2つに分かれます。
排泄や出産など【出す】と臓器を内蔵する【はこ】としての役割です。

どちらにおいても大切な働きをするのが、

・肛門挙筋
・尿道括約筋
・肛門括約筋
・海綿体筋
・会陰横(えいんおう)筋

からなる『骨盤底筋』と呼ばれる筋群です。

お小水をする時は肛門挙筋、尿道括約筋が弛緩し、我慢する時はこれらの筋肉が収縮。
同じく便をする時は肛門挙筋、肛門括約筋が弛緩し、我慢する時は収縮します。

また、スムーズなお産をするには、出産の最後の段階で骨盤周囲の筋肉が弛緩することが重要です。
このように【出す】という生理現象に欠かせない組織が骨盤底筋です。

骨盤腔の臓器と骨が書かれたイラスト

一方、【はこ】としての役割は骨盤内にある臓器の格納です。

骨盤内にある膀胱・子宮・直腸は、身体の全面からこの順番で少し重なるように並んでいて、その配置が臓器の安定性を保つことに貢献しています。
そしてこれら臓器を支えているのは、ハンモックのように骨盤の底についている骨盤底筋です。

このように生活において重要な役割をしている骨盤周囲の筋肉ですが、中高年に多い下半身のトラブルもここに原因があります。
更年期はホルモン分泌量の変化で筋力が低下しますが、骨盤底筋もその影響を受け、筋肉の収縮・弛緩が難しくなります。

骨盤底筋の筋力低下が引き起こす問題は、『尿失禁』『便漏れ』など排泄の問題と臓器が外にでてきてしまう『臓器脱』です。

 

骨盤底筋を鍛えることは中高年女性に必須です

腹圧性尿失禁と臓器脱に悩む二人の中高年女性

更年期という女性にとって避けられない時期を迎えると、なぜ骨盤周囲にトラブルが起きるのでしょうか?

骨盤底筋の筋力が低下するとハンモックの形状が崩れ、臓器が下に落ちてきます。
悪化すると臓器脱という臓器が体外に出てしまう症状に繋がり、生活の質が大きく低下します。

そして女性に多い尿漏れも実は骨盤底筋が関係しています。

くしゃみやお腹に力をいれるだけで尿が漏れることがありますが、これは『腹圧性尿失禁』といい、その原因は主に肛門挙筋・尿道括約筋の筋力低下です。
同じく骨盤周囲の筋力が低下すると便漏れにつながります。

骨盤の働きが悪くなるのは女性に必ず訪れるライフイベントが原因ですが、尿漏れ・便漏れ・臓器脱は今の生活に大きく影響するので、たかが筋力の低下と甘く見てはいけません。

また、若い女性も骨盤底筋を鍛えてほしいと私は考えています。
というのは、出産の時もトラブルが発生しやすいからです。

出産時には骨盤底筋が弛緩することをお伝えしましたが、その後、筋肉がうまく収縮できなくなることがあります。
通常数週間で症状は治まりますが、そのまま続くケースもあるので用心に越したことはありません。

 

快適な生活を助ける「骨盤底筋トレーニング」を紹介します

とくに女性の場合、骨盤周囲の筋力は生活の質と直結していて、加齢とともに働きが悪くなると「出す」という行為に大きな影響がでます。
しかし他の筋肉同様、適切に鍛えることでその機能を維持・増進させることは可能です。

ここからはご自宅でも出来る『骨盤底筋トレーニング』を3つ紹介します。

■お尻をキュッ

骨盤底筋の収縮と弛緩を繰り返すトレーニングです。

①肩幅に足を広げてイスに座ります
②おならやお小水を我慢するように骨盤底筋を収縮します
③そのまま10秒間続けます

 

■横ゆらゆら

骨盤底筋の感覚を取り戻すトレーニングです。

①肩幅に足を広げてイスに座ります
②お尻を片方ずつ持ち上げます
③10~20回繰り返します

 

■前後ゆらゆら

骨盤底筋の感覚を取り戻すトレーニングです。

①肩幅に足を広げてイスに座ります
②骨盤を前後に倒します
③10~20回繰り返します

 

女性と男性の筋肉のつき方は変わらない

マッスルポーズをとる男性と女性

一般的に「男性は筋肉がつきやすい」といわれていますが、それはホルモンの影響が考えられます。
筋肉を成長させる男性ホルモン(テストステロン)は、その名称の通り男性の方が分泌量は多く、女性の分泌量は男性の約15~20分の一といわれています。

しかし一方で筋力トレーニングを行った場合、性別関係なく同じスピードで筋力が増大することもわかっています。

では、なぜ男性の方が「筋肉がつきやすい」といわれているのでしょうか?

じつはそれはイメージが原因でした。

女性は男性よりも脂肪量が多く、皮下脂肪の厚みで覆い隠されてしまうので筋肉のラインが目立ちません。
実際、体脂肪を極限まで落とすボディビルのような競技では女性も筋肉の隆起を確認することができます。

もちろん男性の方が体格は大きいので、絶対的な筋肉量が多いのはいうまでもありません。
女性の筋肉量は男性の2/3くらいと言われていて、上半身は差が大きいようです。

しかし一方、下半身はそれほど男女で差がないこともわかっています。

以上を踏まえると、性別による「筋肉のつきやすさ」はほとんど差がないと言い切れます。

そして以前からお伝えしているように、年齢に関係なく筋肉量を増やすことは可能です。
女性の皆さんは安心して筋力トレーニングに取り組んでください💪

次回の記事では「更年期症状」や「骨折」など、同じく中高年女性に多い症状の予防について考えます。

 

参考文献
女性の骨盤―妊娠・出産における身体的変化とエクササイズ 補訂版(メディカルプレス)
スイスボール: 理論と実技,基礎から応用まで(シュプリンガー・ジャパン)