腰痛の本当の原因を考える(フィジカル編)をお届けします。
【腰痛の本当の原因を考える(メンタル編)】では、心理的な面から腰痛が発生する理由とそのメカニズムをお伝えしました。
腰痛の約85%は「非特異性腰痛」であり、原因を特定できるのはわずか15%程度しかありません。
また急性腰痛に関しては、できるだけ通常通りの生活を継続することが最も効果的であると考えられています。
しかし一方で慢性腰痛に対してはフィジカルトレーニングも有効です。
腰椎の可動域や周囲の筋力および筋持久力を改善することで運動機能が戻り、痛みを減少させられる可能性があります。
ストレスマネジメントが腰痛に有効であることは以前お伝えした通りです。
ですが、そもそも腰回りの機能や筋力が低下していると再発がしやすく、繰り返し痛みで悩むことになりかねません。
ということで、今回はフィジカル面から腰痛の改善法を考えていきたいと思います。
そもそも腰の構造はどうなっているのか?
まずは腰の構造をみていきましょう。
「腰」という字は「月」と「要」を組み合わせてできています。
この「月」は「肉」という文字が変形したもので「にくづき」という呼び名の通り身体のパーツを表しています。
「要」という文字が入っていることからも「腰」は身体の中でも重要な部位です。
脊柱は椎骨と呼ばれる骨が積み重ねってできていて、そのうち腰の部分を「腰椎」、胸の部分を「胸椎」、首の部分を「頸椎」といいます 。
腰椎は5個、胸椎は12個、頸椎は7個の椎骨から成り立っていて、その下には仙骨と骨盤という土台。
さらに骨盤の窪み(寛骨臼)には大腿骨が嵌ります。
この積み木が描くS字カーブのことを「生理的湾曲」といい、クッションとなって運動時の衝撃を和らいでいます。
S字の形状がスプリングの役割を果たし、脳へ直接衝撃が加わるのを防いでいるのです。
椎骨と椎骨の間にある「椎間板」は今川焼のような形をしている軟骨組織です。
骨同士がぶつかると直接衝撃が加わりますが、この椎間板が間にあるおかげで椎骨同士が接触することはありません、
皮の部分の「繊維輪」とアンコの部分の「髄核」から椎間板はできています。
繊維輪はコラーゲン組織、髄核は80%が水分であるゼリー状の組織です。
この2つの組織がクッション材の役割を果たしていて、椎骨に加わる上下からの圧を逃がしています。
脊柱に圧が加わると椎間板が変形して水分が流出、逆に圧が抜けると水分が戻ります。
椎間板には血管がなく、この水分の出し入れで栄養素を取り入れています。
ところで朝の方が身長が高い理由はこの椎間板の性質が関係しています。
日中は立位・座位でいることが多いため重力の影響を受けます。
水分が抜けて椎間板のサイスが小さくなるため、その分身長は低くなります。
その差は約1.5~2㎝。
身長を測るなら朝一番の方が得ということですね😉
骨盤・腰椎・股関節は三位一体で動く
次は脊柱の土台となる骨盤のお話をしていきましょう。
骨盤とは左右の寛骨と仙骨、尾骨を合わせたものの総称です。
周囲にある約80もの筋肉が複雑な動作を行っていますが、大きく分けてその役割は2つあります。
一つは「格納」。
骨盤は腸や生殖器・泌尿器など重要な臓器を納める箱のような形をしています。
もう一つは「連動」です。
骨盤は身体の中心で脊柱と大腿骨を繋げ、腰椎・股関節と三位一体で動きます。
例えば、お辞儀のように身体を前に倒す時に最初は椎骨が一つ一つ屈曲していきます(背中を丸くする動き)。
そして身体の角度が45度を超えてからは骨盤が前傾(尾骨を真後ろに向けるような動き)、股関節も屈曲していきます(骨盤が大腿骨に近づいていく)。
逆にお辞儀の状態から身体を起こすときは、股関節が進展(骨盤が大腿骨から離れていく)しながら骨盤が後傾(尾骨を真下に向けるような動き)。
身体の角度が45度を超えてからは椎骨が一つ一つ進展していきます(背中をまっすぐにする動き)。
この骨盤・腰椎・股関節が連携して動くことを『腰椎・骨盤リズム』といいます。
実は急性腰痛で多いのがこの『腰椎・骨盤リズム』にエラーが出た時です。
先ほどのようにお辞儀をした時に骨盤・股関節が正常に機能してくれないと、腰椎は過剰に屈曲する必要があります。
身体を起こす時も腰椎は過剰に進展する必要があるため、椎間板や周囲の靭帯に負担をかけてしまうことになるのです。
では、なぜ骨盤と股関節の動きが悪くなってしまうのでしょうか?
コロナ禍のステイホームは腰痛の原因だった
骨盤・腰椎・股関節の連携が悪くなる原因は筋力の低下です。
特に衰えやすい筋肉は『ハムストリングス』『大殿筋』『腸腰筋』の3つ。
膝を曲げたり、脚を後ろに引く『ハムストリングス』は骨盤から脛骨にかけて付着する筋肉です。
脚を後ろに引く『大臀筋』は骨盤から大腿骨にかけて付着しています。
『腸腰筋』は腰椎から骨盤を経由し大腿骨に付着する筋肉で、脚を持ち上げる役割をしています。
この3つの筋肉は「移動」という動作に関わっているため、脚を使う生活が少ないとあっという間に衰えます。
特に駅やオフィスでエスカレーターを使う人、デスクワークが長い方などはその傾向が顕著です。
4~5年前のコロナ禍で多かったご相談は肥満とメンタルの不調、そして腰痛でした。
ステイホームが長期間にわたり活動量が低下したためでしょう。
活動量の低下が原因の痛みには『坐骨神経痛』もあります。
脊柱には脊髄と呼ばれる神経の束が通っています。
脊柱の両側には椎間孔と呼ばれる窓があり、脊髄はその窓から枝を伸ばしています。
このうち脊柱の一番下まで走り、骨盤を通って下半身に向かう神経が坐骨神経。
坐骨神経は梨状筋と呼ばれるお尻の筋肉の近くにあり、梨状筋が硬くなると圧迫されて痛みを引き起こします。
不活動は器質的な痛みだけでなく神経にも影響が出ている可能性があるのです。
そして歩行習慣の減少は『中殿筋』の筋力低下に繋がります。
骨盤の横側についている『中殿筋』は骨盤を支える働きをしています。
例えば右脚を軸にして片足立ちになると左足の重みで骨盤が左側に落ちそうになりますが、右側の中殿筋が働いて骨盤を上に持ち上げます。
中殿筋の衰えが顕著に表れるのはモデルウォークです。
歩くたびに骨盤が左右に振れる歩き方は腰椎にも捻りが加わるため腰痛に繋がります。
颯爽と街を歩く女性は実は腰痛に悩んでいるのかもしれません。
中高年に多い椎間板の症状とその原因とは?
活動量や筋力の低下以外に腰痛の原因として考えられるのは椎間板・椎間関節の変性です。
「椎間板ヘルニア」は、椎骨と椎骨の間にある椎間板の一部が後方に飛び出して神経を圧迫する症状です。
加齢により椎間板の水分が減少するとその周囲を取り囲む繊維輪が弱化します。
中央にある髄核は繊維輪が弱くなった場所に移動し、その一部が後方に飛び出して神経を圧迫します。
発症することが多いのは脊柱の中でも体重の負荷が高い第4~5腰椎です。
腰椎にヘルニアができると脚やお尻が痺れます、
同じく加齢と関係するのが「脊柱管狭窄症」です。
これは椎体と椎弓の間にある脊柱管が狭くなる疾患です。
前回お伝えした通り脊柱には脊髄と呼ばれる神経の束が通っています。
脊柱の両側には椎間孔と呼ばれる窓があり、その窓から脊髄は束を伸ばしています。
しかし椎間板が老化すると、脊椎への負荷を分散するために椎体に骨棘を形成します。
これにより荷重のかかる面積が拡大して椎体への重力の負荷は減少しますが、その分椎体と椎弓の間にある脊柱管が狭くなり神経を圧迫。
痺れや痛みなどの症状がでます。
そして女性の方は「腰椎圧迫骨折」にも注意してください。
閉経すると骨密度が低下しますが、影響がでるのは足や手首の骨だけではありません。
脊柱にも影響がでます。
骨密度が低下すると骨の重量に耐えられなくなり、下部の腰椎が潰れてしまいます。
症状が出やすいのは第11胸椎~第2腰椎。
猫背の方が圧迫骨折をすると腰椎の前側が潰れ、さらに姿勢が悪くなります。
健康診断で前年より2~3cm身長が低くなった方は念のため病院を受診するようにしてください。
中高年だけでなく子どもも腰痛に注意!
急性腰痛の多くは椎間板の変性がきっかけですが、椎間関節にも原因があることがあります。
椎骨は前側にある円盤状の椎体と後ろにある羽のような椎弓からなります。
椎間関節とは椎弓の突起同士が作る関節です。
重いものを持ち上げたり、捻ったりした時に起こりやすいのが「ぎっくり腰」。
「魔女の一撃」という別名がある通り、鋭い痛みが腰に走ります。
これは椎間関節周囲の靭帯と筋肉が不自然に伸ばされることが原因と考えられていて、私が慢性の腰痛になったきっかけもこの「ぎっくり腰」でした。
捻挫は本来1~3か月ほどで完治しますが、心理的な原因で長期化することもあります。
少し本題とは逸れますが子どもに多い「腰椎分離症・すべり症」も気を付けたい症状です。
骨が成長しきっていない子どもは、腰部の進展(反らす)・屈曲(曲げる)・回旋(ひねる)運動を過度に繰り返すと椎弓が疲労骨折する「腰椎分離症」を引き起こします。
治療せずに長期間経過すると、神経症状が起こる「腰椎すべり症」になることもあるのでできるだけ早い対処が大切です。
幸い初期の段階できちんと治療を行えば症状は悪化しません。
これら椎間板・椎間関節の症状はX線やMRIで検査することができますので、腰から下に痛みや痺れを感じている方は整形外科を受診しましょう。
さて、ここまで「特異性腰痛」とはどのようなもので、構造的にどのような原因が考えられるのかを解説してきました。
いよいよ次回の記事では腰痛改善のエクササイズを紹介していきます。