【吉祥寺・久我山】アサーティブフィットネス、パーソナルトレーナーの小森祐史です。
前回に引きつづき、誰でも柔軟性が向上する「ストレッチ」を紹介します。
今回が実践編ということで筋肉を伸ばす際の注意点と実際の方法を解説します。
少し身体を動かしたい方やストレッチにご興味がある方は続きをお読みください。
柔軟性を向上させるには「動かして伸ばす」→「じっくり伸ばす」
ストレッチには「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」の2種類があります。
「静的ストレッチ」とは反動を使わずに筋肉をじっくり伸ばす運動のこと。
一般的に「ストレッチ」というと「静的ストレッチ」を指すことが多く、体育の授業でも準備運動として行われています。
前回お伝えした通り、筋膜を伸ばすと筋節(筋繊維の最小単位)が増えて筋繊維が長くなります。
筋繊維を長くして柔軟性の高い身体をつくる方法が、この「静的ストレッチ」です。
一方の「動的ストレッチ」とは反動を使って筋肉を伸ばす運動のことをいいます。
大学駅伝優勝常連校の青山学院大学が行う動的ストレッチが、「青トレ」として話題になったことを皆さんも覚えていらっしゃるのではないでしょうか。
「動的ストレッチ」を行うと筋肉の血流が促され滑液が分泌されます。
この滑液は車のオイルのような働きをしていて、筋肉と関節の動きをスムーズにする効果があります。
また、身体を動かすと筋肉に熱が発生しますが、筋膜は温まると伸びやすくなる性質があります。
つまり『身体を柔らかくする』ベストプラクティスは
「動的ストレッチ」で関節と筋肉の動きを良くする → 「静的ストレッチ」で筋膜を伸ばす。
ということになります。
ストレッチのルールは「30秒」
動的ストレッチ → 静的ストレッチ の順番で行うと身体は柔らかくなりますが、
動的ストレッチの回数・セット数は特にルールがありません。
ただ私の指導経験上、20回×3~5セット程行うと筋肉と関節の動きはスムーズになります。
一方、静的ストレッチには「筋肉を30秒伸ばす」「いた気持ちいいところで伸ばす」というルールがあります。
筋肉には筋紡錘という「筋肉の長さを感知するセンサー」があり、急激に伸ばされると筋肉を縮める指令を出します。
これは『伸張反射』といって筋肉の損傷を防ぐための自然な反応です。
このセンサーのスイッチをOFFにすれば筋肉を安全に伸ばすことができるのですが、その時間が30秒となっています。
つまり体育の授業で行っていた「1、2、3・・・10」と10秒数える方法では筋肉を伸ばすことができません。
少し時間はかかりますが、その3倍の時間を数えましょう。
また、「痛い」と感じるまで伸ばすと『伸張反射』が起きて筋肉は縮んでしまいます。
もも裏の筋肉(ハムストリングス)をストレッチしている時に脚が小刻みに震えた経験はないでしょうか?
あれが『伸張反射』です。
『伸張反射』を抑えるために、脚が震える手前「いた気持ちいい」と感じたところ筋肉を伸ばしましょう。
動的ストレッチの回数・セット数は20回×3~5セット
静的ストレッチは「いた気持ちいいところで30秒伸ばす」
これだけ覚えておいてください。
具体的な方法は👇
動的ストレッチのプレイリスト
静的ストレッチのプレイリスト
柔軟性は人それぞれ
次は個人差について考えます。
スポーツ科学には「個別性の原則」というルールがあります。
これは「身体には個性があり、それぞれに合ったトレーニングが必要である」という考え方です。
『柔軟性」はとくにこの考え方が当てはまり、年齢、性別、人種によって異なることが分かっています。
①年齢
0~6歳までの乳幼児期は柔軟性が高い一方、7~15歳までの学童期~思春期は一時的に能力が低下します。
しかし、これはその時期の生活スタイルが関係している可能性が高いです。
椅子に座って授業を受ける学校生活や、スマホ・ゲーム・机での勉強など家庭での座位時間の長さは、股関節周囲の柔軟性に影響を与えます。
実際15~20歳までの青年期は柔軟性が再び向上するので、成長期は「最も柔軟性が向上しやすい時期」と考えて良いでしょう。
②性別
一般的に女性は男性より身体が柔らかいといわれていますが、これは身体の中のコラーゲンの量が関係しています。
コラーゲンは皮膚の滑らかさや関節の動き、骨の強度を維持するタンパク質で、伸張性が低い組織です。
女性は筋繊維に含まれるコラーゲンの量が少なく、男性より筋肉の伸張性が高いことが分かっています。
また、妊娠すると「リラキシン」というホルモンの分泌が増え、骨盤の関節や靭帯が弛緩します。
これはスムーズに出産するために必要な生理現象ですが、そのことが原因で骨盤周囲に痛みを感じたり、腰痛になることがあります。
これら妊娠時の痛みを予防するには、骨盤底筋・腹横筋を鍛える体幹トレーニングが有効です。
③人種
白色人種と黒色人種のスポーツ選手を比べた場合、後者の方が下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)に柔軟性があり、瞬発的な力を発揮しやすいことが分かっています。
このことが短距離走、バスケットボール、野球などに黒人選手が向いているといわれる理由です。
一方、日本人などの黄色人種は筋持久力が高く、マラソンなどの持久系スポーツに向いているといわれています。
やってはいけないストレッチもある
最後はストレッチの禁忌について考えます。
ストレッチは筋トレや有酸素運動に比べて身体への負荷が少ないので、比較的ハードルが低い運動です。
しかし個人のブログやYoutubeで紹介されている方法の一部には、解剖学の面からみて推奨できない内容が含まれていることがあります。
ここでは「やってはいけない」ストレッチを2つ紹介しましょう。
①180度開脚
雑誌やメディアでもよく取り上げられる「180度開脚」ストレッチ。
脚を180度に開き、べたーと胸を床に付ける光景を見たことがある人は多いと思います。
身体の柔軟性を表すのにこれ以上わかりやすいストレッチはありませんが、実はこの方法だと股関節を痛める可能性があります。
前回お伝えした通り、靭帯は骨と骨を結合し、関節の安定と支持を行う役割をしています。
股関節には多くの靭帯が付着しており、私達が転倒しないで歩けるのはこれら靭帯が動きを制限しているからです。
そして股関節の開脚角度は約90度が限界です。
それ以上脚を広げると靭帯に何かしらの悪影響が出る可能性があります。
靭帯は一度伸びてしまうと元に戻すことはできません。
ですので、開脚してストレッチをする時は脚の角度を90度にして筋肉を伸ばしましょう。
なお体操選手が180度開脚できるのは、子どもの頃からトレーニングを行っていて十分な筋力や柔軟性を備えているからです。
②上体反らし
ヨガは精神の安定や心身の調和を図れる優れたエクササイズですが、解剖学の面から考えるといくつかのポーズには修正が必要です。
その内の一つがうつ伏せで行う「コブラのポーズ」。
両手を付いた状態で上体を反らすと脊柱にダメージを与える可能性があります。
脊柱には神経が沢山通っていて、過度に反ることで神経を伸ばしてしまう可能性があるのです。
また、脊椎同士がぶつかることで腰痛を起こすこともあります。
脊柱の伸展(背中をそらす動き)角度は30度までが適切ですので、レッスンや自宅でコブラのポーズをする時は肘を突いて行いましょう。
最も大切なことは継続
さて2回に分けてお届けした【誰でも柔らかくなるストレッチ】はいかがだったでしょうか?
ストレッチは筋トレよりも負荷が低く、習慣化しやすい運動です。
しかし手軽である一方、適切な方法で行わなければ筋肉は伸びず、思ったような効果を得ることはできません。
また、関節の可動域は一人ひとり違います。
テキスト通りに行ってもなかなか伸び感を感じることができません。
動画を見ながら「これが一番伸びやすい」という方法を探して、それを実践するようにしてください。
ちなみにACSM(アメリカスポーツ医学会)では週2~3回(できれば週5~7回)、一つの筋肉につき4回伸ばすことを勧めています。
成果を出すには筋トレと同じように継続が最も大切です。
参考文献:
柔軟性の科学(大修館書店)
みんなのストレッチ 永久保存版 1日3分! 膝・腰・肩 しつこい痛みから解放される(講談社)
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